2016年3月1日火曜日

ギタリスト福田進一氏の「ツィートでレッスン」(51~100)


日本を代表する世界的クラシックギタリスト、福田進一氏による、ご自身のツイッターを使っての「ツイートでレッスン」(略してTL)の51回~100回を下にまとめて、掲載します。

「ツイートでレッスン」の1回~50回はこちらです→「TL:1回~50回

<福田進一氏画像/ツイッターより>


<ツイートでレッスン>51回~100回


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TL51)記憶力にしても、先ずは短い数小節、数フレーズから覚える努力を。覚える為にはあらゆる手がかりを使うこと。両指の運指、ポジション・マークなどなど。そして、根気良く覚えたそれら記憶の断片を繋いでいくのが集中力。でも、この方法は大曲では通用しないので、先ずは12分の小品か

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TL52)楽譜の記憶法だが、曲の最後のフレーズから逆に辿って覚えていくと効果的。結末を知る、結末に至るプロセスを知ることで、絶えず記憶は知っている方向、明るい方向に向かう。頭から覚え始めて、いつも途中で記憶が途絶える覚えのある人は是非。フレーズがわからない場合先ず最後の段か

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TL53)曲の途中で失敗して、「あれ?」「オッと!」とか言って頭に戻ったり、そこを反復したりする人がいるが、それは最悪の練習法。そんな事をしたら、脳がその場所でミスをした事実を記憶してしまう。曲を弾きだしたら、いつも最後まで完奏する癖をつける。けっして途中で止めてはいけない。

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TL54)脳は、正しい弾き方も間違った弾き方も全てその通りに記憶する。弾き始めたら何がなんでも完奏。もし忘れたら弾かずに鼻唄で誤魔化す。ミスした部分は後から取り出して練習。いつも完奏することによって自分の中に「ポジティブな記憶」しか残さない。失敗した場所は覚えても仕方ないから。

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TL55)と言うわけで、記憶には集中力が必要で、2つは密接な関係にある。実際、「この曲は夢中で弾いてるうちに指が勝手に憶えました〜」とか自慢してる人がいる。しかし、そういう憶え方も万全ではない。記憶のバックアップが他になく、舞台で指がもつれたら先が出てこない。話はもっと複雑。

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TL56)曲を憶えることの本質は「音程や和声で憶える」「曲のイメージで憶える」「ポジションなど視覚的な要素で憶える」等など様々な記憶アプローチの寄せ集め。肉体の動きもそのひとつ。合理的で計算された滑らかな運指はチェスの一手と同じで、強力な武器となる。逆に運指が悪いと憶えられない

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TL57)毎週、先生に一曲を習い、数週間して先生の「OK」が出たら次の曲を選んでもらい習う。残念ながら、この方法ではレパートリーを蓄積出来ない。月に一曲ずつ仕上がったとして、では1年後に12曲を憶えているだろうか?新曲で前の曲を消去しながら「忘れる練習」をしているようなものだ

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TL58)では、どうすれば良いだろう。ひとつのプログラムを作ろう。レベルは問わない。どんなに易しくても構わない。自分の実力に応じたプログラム。今の技術で弾ける楽勝の曲、少し無理かなという曲を取り混ぜ(落差を作った)約30分程度のプログラムAを作り、これを1年かけて仕上げる

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TL5930分が無理なら15分で良い。短いプログラムAを作ってスタート。1年後に全体が仕上がったら、その中の数曲をすげ替えてプログラムBとして続けていく。学校教育で言うカリキュラムだが、そんなに難しく考えなくて良い。短距離走から始まって徐々に中距離、マラソンへと拡大していく

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TL60)「そんなやり方をしたらどの曲も中途半端になって、音楽が深まらない」と言う先生のお叱りが聞こえてくる。では1曲をいつまで練習すれば良いのか?誰も答えてはくれない。そもそも弾き込む事で音楽が深くなると思うのは錯覚。それは「曲に馴れた」だけ。新鮮な感覚は失わない様にしたい

TL61)舞台で上がらない方法はありませんか?とよく訊かれる。実は、私も毎回上っているのだが、質問者にはその様に見えないらしい。よく客の頭をカボチャ、大根だと思えとか言うが、そんなこと思っても良い演奏が出来るとは限らない。場数を踏んで、自分なりの解決法を見つけ出すしかない

TL62)舞台に出て一礼、座るなりパッと弾き出す人がいる。例えばジョン・ウィリアムズ。どうして?と尋ねたら『自分に上る隙を与えないためだよ』との答え。座った途端に弾き始める。それが彼独自の上がり止め解決法。逆にオスカー・ギリアは5分以上調弦し音楽が降りて来るのを待つ。儀式の様だ。

TL63)再び初心者へ。 元来ギターはヴァイオリンの様に旋律を弾くための5度調弦の楽器ではなく、より伴奏の和音が弾きやすい4度調弦の楽器。だからと言って、最初から音階と和音、アルペジオを一緒にして始めるレッスンが多過ぎると思う。もっと旋律を弾く時間を長くしても良いのではないか?
TL6480年頃、パリ郊外の音楽院で巨匠ロストロポーヴィチの講習会を聴講した。小さい子には「何でも思い浮かんだメロディーを音にして出しなさい」「今度はそれをいろんな調で弾いてごらん」「まずは、楽器の何処にその音があるのか、楽器の事を知るのが大事」と、徹底して教えておられた。

TL65)ギターにはフレットという「便利で厄介」なものが付いている。フレットのおかげで、初心者でも正確な音程を確保出来るが、逆にフレットのせいでレガートな歌のラインが作りにくい。もっと一本の旋律線を歌う様に弾く訓練を和音、アルペジオは徐々に加えていこう。 決して焦らないで

TL66弦第9ポジションのミからポジションはそのまま変えずに、ホ長調の音階を弾いてみよう。1の指はいつも同じポジション。運指は、 1-3 1-2-4 1-3-4 となる。ミ/ファ#/#///#/#/ミの音階 右指は、先ずはi / m のアポヤンドで。

TL67)基本的に右手親指はいつも④⑤⑥のどれかの低音弦に乗せている事。弦に指を押し付けてタッチしない。また、逆をつまみ上げて弾かない。指の付け根から動かす。 左手は押さえた後の指を離さない。各指は「同じ高さから落ちる」開始点が高くても低くても構わないから、同じ高さから押さえる。

TL68 左指がいつも同じ高さから落ちる/押さえるというのは若い頃にチェロ奏者の友人から教わった技術。指の運動を記憶する時に、バラバラの高さから押さえていると脳が混乱するから。これはどのギター教則本にも載っていないが、非常に使える技術だと思った。

TL69 音階はローポジションのハ長調しか弾けません、と言う人が多い。で、その次のステップがセゴビア・スケールというのが実際難し過ぎる。(66)の簡単な1オクターブを各ポジションで弾いてみる。あらゆる調に運指を変えずに移調出来るギターって、簡単!難しいという先入観を取り払う。

TL70 今度は(66)で示したホ長調の音階を弦のみ使って弾いてみよう。運指は開放弦から始まって第2ポジ(P.2と略す)0-1 / P.41-2-4 / P.91-3-4 開放弦から始まる音階を弦から弦まで5種類作れる。 弦は2オクターブ下のホ長調が弾ける。

1月31日
TL71)何故、我々は古典音楽から勉強を始めるのだろう。別にいきなり現代でも構わないのではないか? 答えは明白。音楽を様式、形式といった「外枠」から捉え「バランス感覚」を養うためだ。4小節から8小節、16小節から先へ最小単位から組立てられる音楽の構築感、その美しさを知るため。

1月31日
TL72)古典以前のバロック音楽も古典以後の音楽も、ある意味通常のバランス感覚を逸脱したものが「良いもの」とされていた。タレガの前奏曲など、ものによっては5小節でフレーズが構成されていたり、和声や転調もかなり独創的。そう言えばビートルズのイェスタデイ冒頭など7小節で出来てる!

1月31日
TL73)音楽は時間を操る芸術なのだから、最も単純な構成、二部形式A+Bに始まって、A+B+C、ロンド形式、ソナタ形式、変奏曲、という風に「扱う時間を延ばしていく訓練」が大事。始めて1年でタレガというのは少し早過ぎるし、技術はさて置き音楽的に無理があると思う。 もっと古典を!

2月1日
TL74)カルカッシの「25のエチュード Op.60」からソル、アグアドに進む前に、必ず「50の漸進的な小品 Op.59」を勉強して欲しい。この簡単な曲集を音楽的に弾く訓練を。私は上級者になってからも、道に迷ったらこの時点まで遡って何度も反復した。(現代ギター今月号に掲載)

2月1日
TL75音楽的にと言われても何をどうしたら良いか判らない人は、先ずは音楽の抑揚(イントネーション)に集中してみる。基本は旋律線が上昇すればクレッシェンド、下降すればディミニュエンド。もちろん逆の場合もあるが、それはもう少し先。いつも問題の焦点をひとつに絞って練習する。

2月1日
TL76)音楽的な演奏というのは快適なカー・ドライブに似ている、自然界にある運動の法則に逆らった動き(演奏)、急激なアクセルやブレーキを多用すると事故につながる。かと言って、ただ安全に無難に平均速度以下で慣れきったルートを走っても面白くも何ともない。風景に感動する余裕も必要だし。

2月1日
TL77)音楽的に弾けと言われると、いったい何が音楽的なのか?という様々な疑問が湧くはずで、テンポなのか、リズムなのか、音色なのか、音量なのか、とあれこれ悩む事だろう。一気に全てを解決しようとせず、ゆっくり1つずつ考える習慣をつける。今月は徹底的にテンポの月!みたいな感じで。

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TL78)左指が弦から外れる。ギターという楽器の大きな悩みで、どんな名手にも起こりうる。すでに(30)前後で説明したように、指先が弦とつくる角度をなるべく一定に保つことは鉄則。さらに「押さえる移動して押さえる」を「押さえる脱力移動押さえる」と分解して考える。

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TL79)もっと細かく言うと「押弦次を押弦」という2ステップではなく。「押弦真上に上げ脱力次の押弦位置に移動真下に押弦」と3〜4のステップで考える。 押さえながら次に行こうとすると弦を斜めに擦ることになり、ギター特有のキュッという音がする。 脱力して移動が基本。

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TL80)アンサルブルが合わない!という悩みをよく聞く。でも、日本人は「合わせ」において外国人には理解不能、辞書にも載っていない魔法の呪文を知っている。他人と音楽を合わせるなどという高次元の感覚の無い素人でも知っている魔法の言葉。それは「せーの!」 さて、問題はその使い方

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TL81)皆で仲良く「せーの」と言ったにもかかわらずテンポがバラバラなのは単純にタイミングの問題だけではない。一番の原因は、共演相手の音を聴いていない事。いや音を聴く前、音を出す前の相手の呼吸を聴いていない事にある。 弾き始め、いったい何に集中するのかを考えよう。

TL82)「せーの」と言う速度、更に言う直前の呼吸の速度の違い。さらにアクセントの位置は「せー」にあったのか「のー」にあったのか?Aさん「せーのっ!」Bさん「せーの〜」Cさん「せえのお」などなど、合図の呼吸速度が異なってたら合うわけがない。撥弦楽器は一瞬の間合いでズレが目立つ。

TL83)私は決して「せーの」擁護派ではない。そりゃ「せーの」を使わず一瞬の阿吽の呼吸で始まるのがプロだしアマもそれが理想的。でも、「せーの」はなんとも便利であって、誰もが解る和製音楽用語で愛らしい。 出来れば曲の開始は、一瞬呼吸を止めて集中し、心で「」と言ってから始めよう。

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TL84)タブ(TAB)譜でないと弾けない。五線譜が苦手という若者が増えている。クラシック・ギターと、アコースティック(ポピュラー)ギターの境界線がどんどん薄れていった結果かも知れない。クラシックに進むのなら五線譜を勉強するのは必須。タブ譜は一見解りやすいが情報量が少な過ぎる。

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TL85)歴史的に16世紀のビウエラやリュートの音楽はタブ譜で書かれていた。数字やアルファベットで押さえる場所を記録する方法。これが後に五線譜に置き換わった大きな理由はタブ譜には多くの声部を認識し、弾き分ける機能がないから。その楽器にしか通用しない言葉で書かれた楽譜では困るし

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TL86)タブ譜しか読めないと、音楽理論も勉強できないし、仮に高度な技術を獲得したとしてもそれを発展させることが出来ない。他の楽器の人に見せても伝達出来ない。フラメンコやジャズの即興の達人で譜面の読めない人もいるが、クラシックには皆無。辛くても頑張って五線譜にトライして欲しい。

 2月9日
TL87)練習に行き詰まったら、楽器を新しくするのは有効だ。私は初級から中級、中級から上級に向かうに従って約3〜4年の周期で変えた。楽器は先生よりも長時間付き合ってくれるパートナーであり、楽器が先生となって教えてくれる事は多い。自分の技量には少し贅沢かなと思うくらいの楽器が良い。

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TL88)では、どんな楽器が良い楽器かと言えば、それは各自の好みで弾き易さも含めて音色が気に入ったものとなるのだろうが、私は張力の弱い甘い音色の楽器には用心した方が良いと思っている。しっかりした弦の抵抗を感じる楽器、名器であればあるほど、弦が指先を押し戻す様な感覚があるものだ。

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TL89)究極の名器御三家「ハウザー/ブーシェ/フレタ」のクラスになると、相手が素人だとガチガチに固くてタッチを受け付けてくれない。(8)前後で述べた様にしっかりして、かつ柔軟なタッチでないとコントロールなど出来ない。強靭さと暖かさなど、「相反する要素を合わせ持つ」のが名器。

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TL90)ギタリストほど自分の楽器に無頓着、メインテナンスをしない種族もない。ほとんどの人が買った時のままの楽器を「カスタマイズしないで」弾き続けている。押さえにくくなっても、それは歳のせいで筋力が落ちたからだと良い方法で我慢している。年に一度必ず楽器をメインテナンスする事!

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TL9112フレット上で⑥弦の下からフレットの頂点までを4ミリ、①弦の下からフレットの頂点までを3ミリ。それを超える弦高なら高すぎて押さえにくいのは当然。私は⑥弦側で3.8ミリ、①弦側を2.8ミリという超低い設定。弦の張力もローテンションのゆったりしたものを選んで張っている。

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TL92)高い弦高の楽器をビシバシ弾くのが格好良いとか、弦は張力がある方が良く鳴るとか言う人がいるが、個人的にほとんど妄想に近いと思う。今まで、ジョン、ブリーム、パコ、弾かせてもらった巨匠の楽器はどれも驚くほどローテンションだった。音の張りと迫力は音色と音楽で決まると信じたい。

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TL93)ギターは簡単に音色を変えることが出来る楽器。しかし、例えばカルカッシ教本の最初のハ長調のワルツ、その中間部はイ短調になるが、ここを全く同じタッチ、同じポジションで弾き続ける人が多い。自分で暗い音に感じないのか、もうちょい指板寄りでとか先生は教えてくれないのだろうか

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TL94)初心者の間から敏感に音色、色彩を感じて瞬時にタッチに反映させる訓練が必要だ。最初はハッキリ弾く事が大事だが、徐々にぼかした音、暗い音も覚えていく。それは指先のほんのちょっとしたコントロール、まずは基本の位置から少し指板よりで柔らかく弾き、駒よりで硬く弾くの違いを知る事。

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TL95)次に手首を表面板から高く離したタッチ、逆に低く寝かせたタッチ、色々な角度で弾いてみよう。爪だけ、指頭だけ、あっ、こんな音も出るのか!と子供のように発見し感動して欲しい。まさに楽器と戯れるという感じで。大人になると、そういう遊びと発見よりも決められた作法を重視してしまう。

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TL96)さて、テンポの話。子供の頃から何を弾いても速いし、落ち着きがない。もっとゆっくり弾けと周りの大人に言われてきた。そして自分が大人になり、人を教えるようになって、ほとんどの才能ある子供が早弾きであるのを知った時、あれは若い芽を摘む大人たちの策略だったのか!と気付いた。

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TL97)誰もが認識している事だが、子供の頃は時間がゆっくり流れた。それは脳が成長しながら高速回転しているからで、大人の逆の目から見れば速く弾くのは当然なのだ。体感している時間が違うのだから… 私は速く弾く子を止めない。ただ、その速さに耐える技術、身体を持ちなさいと教える。

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TL98)速く弾ける人はコントロールを学ぶ事でゆっくりも弾けるようになる。しかし、その逆は難しい。同じ理屈で大きな音で弾けるなら、繊細さも獲得出来るだろう。音楽性、創造性、芸術性に行くずっと前の初期段階にアスリート的なやり方を徹底させないとプロへの道はない。これは厳しい現実。

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TL97/補筆)もちろん、ラルゴやアンダンテのゆっくりした曲をアレグロで速く弾いたら注意しますよ。私が話しているのは基本的な「体の持っているテンポ感」の話。

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TL98)とにかく良い演奏を沢山聴き、耳を肥やせと教えられた。師匠のオスカー・ギリアからは、本物の「歌」とは何かを知りたければ、フランク・シナトラを聴けと言われた。先日紹介したアーノンクールの最新盤「第4&運命」のライナーを読んでいて、巨匠もシナトラの歌について触れていて驚いた。

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TL99)アーノンクールは名著「古楽とは何か(音楽之友社)」を引き合いに出すまでもなく、そのアプローチの全てが音楽的で、ウンチクの宝庫。「第4&第5運命」の寺西肇氏のライナーノートは、丁寧な訳と共に必読の価値あり。もちろん、CDは必聴。既成概念を覆す驚きと新しい響きに満ちている

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TL100)今の若者にフランク・シナトラなんて古過ぎてわからないか…私が生まれた頃の録音。ハイレゾ配信で聴くと50年代これほどハイセンスなアレンジと録音が行われていたと驚く。 さて、ツイートでレッスン、ちょうど100回でキリが良いので、次回から一段階アップして、テクニックの項。

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